ピアノレッスン3

<あらすじ>
全くピアノに興味のない生徒と、全くピアノを教える事に興味のない先生の、史上最低のピアノレッスンが今まさに幕を開けようとしていたのであった!!
 
とにかくその子はピアノに全くの興味がなくなってるから、俺が教えに行ってもなんとかしてレッスンを始めるのを遅くさせようと無駄な会話を長引かせたり、途中でトイレに行って時間を稼いだり、もうあの手この手なんですね。
で、ついにある日、その子はレッスンそのものをボイコットしたのです!
 
ボイコットと言っても、べつに家に帰って来なかったとかではないんだけど、俺が彼の家に行ってみると、珍しく遅刻もせずに彼がいるんですね。だからこっちはむしろ「お、今日は珍しくちゃんとやる気だな!」と思っていたら、母親がなんか申し訳なさそうに「先生、せっかく来て頂いたんですけど、なんかこの子、体が痛いみたいで今日は出来ないって言ってるんですよ・・・・」って言って来たんですよ。「なぬ!?」と思いながら彼の方を見ると、どう見てもピンピンしてんですよ、どっかが痛そうな感じは全然無いんですね。
お母さんは「あなた、後はちゃんと自分で説明しなさい」って息子に話を振って部屋から出て行ったんですが、すると彼が「いや・・・あのー、今日学校で運動会の練習があったんですよ。で、僕ピラミット(組み体操のやつね)の一番上に乗るんですけど、あの上から落っこちちゃってね、お尻を打っちゃったんですよ。。。」と、そこまで説明されたのですが、こっちは今いちピンと来てないんですね、ピラミットから落っこちて、そんでなんなのか??と。
「それで、お尻が痛いんで、ピアノの椅子に座れないんですよ、、、。ピアノの椅子って固いじゃないですか、先生・・・。」
なぬー!??、ピラミッドから落っこって、お尻が痛くてピアノの椅子に座れない??、ってお前ピアノの椅子に座れない位だったら普通の椅子だって座れなくねーか!?お前今まさに目の前で普通の椅子に座ってんじゃねーか!!
ちょっと意地悪して「っていうか、今座ってるのは痛くないの??」って聞いてみると、「いや、これは結構柔らかいんで・・・」って、ピアノの椅子が特別そんな固いとは思わないけどな・・・。で、試しにピアノの椅子に座らせてみると、「いや、、さっき練習しようとしたらすごく痛かったんで・・・」って言って、嫌そうな顔をしながらもピアノの椅子に座ろうと試すのですが、何度かお尻の位置を変えながら座ろうとして「あ、、痛い・・・。あ、、やっぱり痛い・。あ、、、痛い。。。」って、お前は痔か!!って言いたくなる様な反応な訳ですよ。
で、結局その日は柔らかいソファーに座って、1時間世間話をするっていう、もう本当にピアノレッスンでもなんでもないレッスンになりまして。もちろんカステラとメロンは振る舞われた訳ですが、ソファーに座って中学生と話をしてお金をもらうって、なんかもう全然別のアルバイトになってますよね。。
 
それで、なんとなく彼の趣味に関して話す事になったんですが(どうせピアノの話なんて興味ないんで)、「あ、先生これ見て下さい。」って見せられたのが、なんか謎のNゲージ(電車の模型ね)のカタログとかなんですよ。俺全然そういうの分らないから「なんなのこれ?」って聞いたら、もう嬉しそうにNゲージについて語る訳ですよ。で、今度は「先生これも見て下さい」って渡されたのがなんか飛行機関係のグッズの本なんですよ。「これがJALのなんとかかんとかで(それが何の部品なのかも全く分らない)、全日空だとこういうのなんですよ。あと、こっちは日本初の旅客機のなんとかで・・・」ってもう全く分らないんですが、とにかく嬉しそうなんですよ。
要は彼は飛行機とか電車とかの、乗り物オタクだったんですよ。
 
思えば、見た事もない妙な雑誌とかが置いてあるなあとは思ってたんだけど、そんなにオタクだとは思ってなかったんですよ。それがひょんなきっかけで、彼がプラミッドから落ちた事により、丸々1時間大好きな乗り物について話す事になって分ったんですね。
それにしても、飛行機やNゲージの事を語る時の彼の目がマジで輝いてるんだよね!。今までこんな嬉しそうな顔した事なかったじゃん!って位すごいわけ。そう考えると、こいつほんとピアノ好きじゃねーんだろうな・・・と。こんな表情、今まで1度もピアノ弾いてる時にした事ねーな・・・と思ってしまった訳です。
 
そんな乗り物オタクの生徒とのピアノレッスンが、この後さらにすごいものになるという事は、その時点では俺自身知る由もなかったのだ・・・。
 
さらに続く。。。