2002 N.Y. <一期一会>2

ニューヨークではどうもプロバイダーの調子が悪いらしく、持っていったPCをホテルでネットにつなげる事が出来ず、やむを得ず近くのKINKOSに行く事にした。
 
本当は旅に来てまであまりネットにつないだあーだこーだはしたくないんだけど、元々多くの知り合いとメールで連絡を取り合う事が多いんで、こればっかは必需品なのだね。僕にとってはむしろ携帯電話とかよりもメールの方が連絡手段としては重要になっているんだよね(特に外国の友達と連絡を取る場合、言葉の壁もあるので、メールでちゃんと連絡を取り合った方が後々伝達ミスとかがなくて助かる)。
 
今回はチェルシーホテルに泊まっていたんだけど、そこから歩いて5分もしないところに都合良くKINKOSがあり、しかも24時間やってるもんだから夜中でも自分のノートパソコンを持って行ってメールチェック出来て結構助かったね。なんかホテルの部屋で一人でネットにつないでるよりも、むしろ夜中にKINKOSに行って他のお客(主に学生かな?)とかに混じってパソコンをいじってる方が雰囲気的にも面白くて、学生の頃に図書館行って勉強したりした感じかな?なんかすごく新鮮でした。
 
さて、そんなある日。いつも通りKINKOSにネットつなげに行ってみると、僕が使おうと思っていたブースの前に一人の日本人の女の子が立ってました。そこのKINKOSには自分のPCをつなげる事が出来るブースはそこ一つしかないんだけど、どうもその子は眺めているだけで使わなそうなんで、日本語で「そこ使ってもいいですか?」って聞いたんですよ。その子も突然日本語で話しかけられたんでちょっとビックリしながらも「あっ、すいません、いいですよ」って譲ってくれたんですね。
 
で、いざ使おうかと思ったら、その子が話しかけてきて、「ちょっとお尋ねしたいんですが」って突然自分の事を話し始めたんですよ。自分は今ステイしている家で電話線でネットにつなげたいんだけど、家の電話線が取り外せるタイプのものじゃないんで自分のノートパソコンをつなげられない。電話線さえつなげればすべてうまく行くんだけど、家以外で電話線をつなげる事が出来る場所がない。パソコンに関しては素人なんで電話線でつなぐ以外の方法は設定変更を含めて全く分らない。データのやりとりとかをするんでどうしても自分のパソコンをつなげたい等々、かなり切羽詰まった感じなんですよ。
 
しかし都合の悪い事に彼女のパソコンがWINDOWSだったんで僕も全然使い方が分らない。でもまあなんか本気で切羽詰まってる感じなんですよ、お願いです!なんとか助けて下さい!!みたくなってんのね。
 
あまりに彼女が困ってそうだから、俺も「あのー、マジで困ってますか?」って聞いて、「本気で困ってるんだったら、俺のホテルの部屋に来て電話つなげてもいいですよ、すぐ近くですから」ってすすめたんですよ。見ず知らずの女性をホテルの部屋に入れるっていうのも微妙なんでね、誘う事自体どうかと思ったんだけどね、逆に俺の方が下心あるみたく思われても嫌だしね。だから、あくまであまりに困ってるんだったら俺の部屋の電話使ってもいいですよって、僕は助けてあげたいけど、無理には誘いませんからどうするかは自分で決めて下さいって事でね。
 
そしたらさあ、もう本気で喜んでんのよ。あなたは神様だ!!位の勢いでね。でまあ、俺の作業が終わったらホテル行こうかと思ったんだけど、よくよく考えたら今日俺のホテルでネットにつなげれたとしても、これから毎日俺のホテルに来るわけじゃないし、そもそも俺が日本帰ってからはどうすんだよ?って話でしょ。だから根本的なとこで設定とかを変更してここ(KINKOS)のLANからつなげるようにしてあげないと、明日からどうせまたつなげれない日々だなと。
 
そう思って「やっぱり俺のホテルには行かないで、ここでなんとかしてみましょうか?WINDOWSなんで出来るかどうかわかんないけど、可能な限り俺がやってみますよ」って言って彼女のノートパソコンの設定変更をしてみたんですよ。僕は今までMAC以外使った事ないんで、ホント全然分らないんだけど、あーだこーだ20分位やってみたら遂にLAN経由でネットにつながったんですよ!!
 
もう彼女ホントに感激してね「本当にあなたが神様に見えますよ!!なんか私に出来る事があったら言って下さい。」ってすごいのね「なんか出来ることないですか?なんでもお願いとかあったら聞きますよ、なんなりと言って下さい!!なんかさせて下さい!!」とかってホントすごい感謝ぶりなんですよ。だから「いや、困った時はお互い様なんでね、全然大丈夫ですよ気にしないで下さい」って去ろうとしても、「いや、ホントせめてお名前だけでもお聞かせ下さい!!」みたいになってんのね、俺もすっかり「セザール!!」とかって言おうかと思ったんだけど、そこはギャグをしっかりこらえて「いや、ホント気にしないで下さい。またいつかどこかで。」とかって我ながらスマートに去ったんですね。
 
結局僕と彼女はお互いの連絡先はおろか名前すら教える事もなく別れたんですが、こういう事ってホント面白いよね、ホント一期一会。もちろん彼女は俺がミュージシャンでどうこうなんて事も知らないしね、俺も彼女の事は全く知らない。たまたま偶然にその場に居合わせたから起こった出来事でね、もう一生会う事もないだろう関係。そういう潔さがすごく気持ち良かったんだよね。あそこで僕が「じゃあこれもなんかの縁だから電話番号交換でもしますか」とか「じゃあ、夕食でもしますか?」とかって言ってしまったら多分こういう潔い気分にはなれなかっただろうなって。もちろんこれが出合いで恋愛が始まって・・っていう映画みたいな展開っていうのもそれはそれですごく良いと思うけどね。
 
この話には後日談があって、なんと次の日にも彼女に偶然ニューヨークの街角でバッタリ会ったんですよ。彼女はちょうどこれからまたKINKOSに向うとこだったみたいで、やっぱりその時もホントに感謝してましたね、お陰さまで助かりました!って感じで。さすがに2回目偶然会った時は僕もこれはなんかの運命か!?とか思いましたけどね、でもその時も相変わらず名前も連絡先も教える事なく「それじゃまたいつかどこかで!」って別れたのでした。もちろんニューヨークの街並に消えて行く僕の背中を見ながら彼女が「セザール!カンバーーック!!」と叫んでいた事は言うまでもありませんが・・・