郷に入れば

昔の人は良い事を言ったものです、それ即ち『郷に入れば郷に従え』ってやつですよ。海外に行くとですね、僕なんかすっかり郷に入っちゃうタイプなんですよ。ホント実に簡単にスーっと郷に入っちゃいますね。
 
早い話が食べ物の話。僕、日本にいるときはワインってすごく苦手なんですよ、イタリア料理とか食べに行くと一応付き合いで飲んだりはしますけどね。自分から進んではあまり飲まないし、どちらかと言うと頭が重くなったり、苦手な方なんですよ、ワイン。
 
でもそんな僕でもイタリアとかフランスに行くとすっかり郷に入ってしまうんですね、もう昼間からワイン飲みまくりなんですよ、もうど真ん中直球で郷に入りまくる訳ですよ。ほぼ毎日生ハムにワインとかですからね。日本での僕の酒生活を知っている人が見たらきっとビックリしますよ。
 
酒だけじゃなくね、ヨーロッパにいると必ず食べるのがバケットのサンドイッチ。中身はトマトとモッツァレラチーズとか、生ハムとチーズでもうまいですね。お昼はサンドだけって事もよくありますね。だけどこれも日本での僕の食生活を知ってる人が見たらビックリすると思うんですよ。日本では僕はパンを全く食べないですからね。夕食・昼食はもちろん朝食でもまずパンを食べる事はないですね。なんか嫌いなんですよ、パンって、モサモサしてて。でもヨーロッパに来るとなぜか毎日のように、進んで自分からサンドイッチを食べてしまう。
 
これってね、別に旅行で来てるからせっかくだからその土地の物を食べようって話ではないと思うんだよね。そういう観光的な意味以上に、やっぱりその土地その土地になじんでる物・やり方っていうのが絶対的にしっくりくるんですよね。だからねヨーロッパでワインを飲んでも不思議な程二日酔いしないんですよ、東京だと次の日にすごく残るから飲まないんですけどね、不思議とフランスとかイタリアでワインを飲んでも全然二日酔いしないんですよ。これってね、やっぱその土地になじんでるって事だと思うんですよ。
 
まあそれを細かく分析すればね、例えば気候の違いとかもあると思うし、あるいは圧倒的にヨーロッパの方が同じ値段だったら良いワインを飲めるという事もあるから、それで悪酔いしないとかってのもあるかもしれないですけどね。とにかくそういう色んな要素をふまえた上でその土地その土地のベストなやり方っていうのがある訳ですね。だからイタリアでワイン、ドイツでビール、ロシアでウォッカ、メキシコでテキーラ・・・・とかっていうのは、単純に観光的な意味以上にすごい賢い選択というかね、それなりにその土地に根付いてる理由があるんですよね。だから『郷に入れば郷に従え』って事になるんですよね。
 
だから日本では毎日ご飯か麺しか食べない僕も、ヨーロッパに来ればパンを食べますしね。例えば寿司屋とかもね、日本の寿司屋での流儀とアメリカの寿司屋での流儀とかって全然違う訳ですよ。アメリカの寿司屋でいつも日本で頼んでる頼み方なんかしたって全然駄目でね、「とりあえずなんかツマミ下さい」なんて言っても全然美味しいもん出てこないですよ、アメリカじゃ。アメリカだったらねもういきなり「スパイシーツナロールにソフトシェルクラブロール下さい」とかね、それが全然うまいんですよね。日本じゃこう頼むんだ!!なんて意地張ってても美味しいものは出てこないんですね、あくまで郷に入っていかないとね。
 
という事でですね、旅とはすなわち『郷に入れば郷に従え』の世界だと思うんですね。最初は観光的な事でいいと思うんですよね、「せっかくフランス来たからワインでも飲んでみるか」とか「タイに来たんだから屋台でなんか食べてみるか」とかね、でもその内それが実にしっくり来てる事に気付いてくる、そしていつの間にかすっかり郷に入ってしまってる、それが旅の醍醐味なんじゃないですかね。
 
人ってそうやって気づかぬ内に変わるものだと思うんですよ、それってすごくいい事でしょ、変われるって。日本にいて突然生活習慣を変えるってすごく大変だと思うんですよ、それが「ビールからワインへ」とかってレベルでもね。でも海外に来ると気づかぬ内に変わってる、郷に入っちゃってね。それがどんな変化であれ、変われるって事はすごく良い事だと思うんですよ。だから旅に出たらどんどん郷に入っちゃった方が賢いなと、思いますね。まあ僕が言ってるのはいつも食べ物の話とかばっかなんですが・・・