タイな考え方

メキシコではとにかく常に警戒が必要なのだ。早い話がタクシー。とにかくタクシーに乗りたかったら常にメーター確認や値段交渉などが必要なのだ。正確に言えばメキシコにも当然タクシーの正規メーター料金というのがあるんだけど、そこはもうなんつーか建て前みたいなもんで、白タク当たり前、正規タクシーでもちょっと目を放せば平気でメーターを止めちゃう。日本だったらメーターが止まってたら、むしろ「しめしめ、運転手メーター動かすの忘れてるよ、、、」って話だけど、メキシコではメーターが止まってたら後で幾ら請求されるかわかったものじゃない、後でトラブらない為にもちゃんとメーターを動かすように言わなくちゃいけない。メーターを動かしたら動かしたで、今度はまたいつ道を遠回りするか分からない。とにかく常に警戒が必要なんだよね。

これはタイも一緒で、とにかくタクシーやトゥクトゥク(3輪車みたいなタクシー)に乗る時は常に値段交渉・メーター確認が必要なのだ。そしてタクシーだけじゃなく、街で買い物とかをする時にも常に警戒が必要です。とにかくまず向こうは値段を高く言う、そこから交渉始まりで値切ってみたり、それでもだめなら他の店に行ったり、とにかく面倒臭いんだよね。信頼できるはずのホテルのフロントでタクシーを呼んでもらっても、そのフロントのやつがマージンを取って白タクを呼ぶ場合が多いので、ホテルのフロントすら信用出来ない。

タイにおいてなぜ日本人観光客が特にそういうボッタクリの被害に遭うかというと、それは実はタイ人の中にある基本的な考え方に由来するのだという事に途中で気付いた。タイ人の中にあるその基本的な考え方というのは何かというと、お金を持ってない人がお金を持っている人からお金を取る(時には騙してでも)というのは決して悪い事じゃないんだ、という基本概念なのだ。つまり金持ちから貧乏、しいては上から下への流れというのは自然であるという考え方が基本にあるようだ。だから例えば本当は1000円の物を5000円と言って吹っかけたとして、もし客がそれでOKと5000円払ったとしたら、それは5000円払える人から5000円取ったのだから良い、という事になる。その商品自体の値段というのはさほど問題じゃないのだ、お金がある人からお金を取る、というのが重要な(というか自然の)流れなのだ。貧しい人間が裕福な人間からその富を得るというのは、たとえそこに多少悪い行為が含まれてても問題ないのだ。

だからタイには本当に様々なコピー商品・海賊商品というのが出回っているけど、そこにも全く罪悪感というのがない。「コピーされるくらい売れてるんだからいいじゃん!!」って位です、「君の所のブランドは高すぎてみんな買えないからコピーして安くしたっていいじゃん」って位ですよ。

そういう考え方をはっきりと認識させられたのがバンコクにある海賊ゲームソフト市場に行った時でした。そこの市場ではプレステのゲームの海賊版がなんと1枚約60円で売られてたんだけど、1枚60円ってすごいよね。全く空のCDだってその位すんじゃないの?って思うけど、とにかくプレステの偽物ソフトが1枚60円で売ってるようなそんな市場です(って日本でゲーセンで1回ゲームしたって100円だよ!!、それがゲームそのものが60円って、、、、、、ねえ)。そこの市場であちこち物色してたら、そこへ老人のいわゆる乞食が来たんだよね。ひと一人通るのがやっとというその市場の路地をその老人の乞食がノソノソとやってきて、そこに並ぶ偽ソフト屋1軒1軒に「お恵みを、、、」って感じでお恵みを頂戴しようと来た訳。

そしたら驚いた事に、軒を連ねる海賊ショップの店員がほぼみんなその老人にお金を恵んでるんだよね。海賊ソフトを1枚60円で売ってる人達がだよ!!自分達だってそんなお金無いはずなのにさあ、みんな少額とはいえその老人に恵んでるわけ。なんか俺はそこですごいショックを受けてさあ、かれらの考え方自体が正しいかどうかは判断出来ないけど、とにかくすごくちゃんとした概念が底辺にあるなって思った。

自分が自分よりお金を持ってる人からお金を取る(例えそれが違法だったり、いわゆるボッタクリ行為だとしても)というのと同じで、自分が例えどんなに貧乏であっても自分より貧しい人には恵んであげるという事なんだよね。そこら辺の徹底した感覚はすごいと思った。

僕らがタイに行ったら基本的にはボッタくられる立場にいる訳だから、そういうルール自体は僕らにとってはあまり良い話じゃないけど、そういう明確な上から下(という言い方が正しいか分からないけど)的な考え方というのは、なんか立派な気がした。

思えば日本もアメリカもそうだけど、みんなが良い意味で平等である分そういう助け合い的な考えというのは無くなってしまってるだろうね。日本で貧乏な人はおそらく「俺は貧乏なんだから他人の世話なんてしてらんない」と思うだろうけど、タイでは「俺は貧乏だけど俺より貧しいやつにお金を恵むのは当然だ」という事になるんだよね。なんかそういう考え方を知ると、街で高い値段を吹っかけてくるお店の奴やメーターを止めてしまうタクシー運転手も、あまり悪いやつらじゃないかもと思ってしまう。

世界中を旅するとその土地その土地で色々な考え方・生き方に出会うけど、タイのこの考え方も、なんか我々が失ってしまった大事な考え方の一つのような気がした。