TALK SHOW by Yuhi Komiyama

罪悪感

ミュージシャンは気楽な稼業ときたもんだ~。

以前はそうも思わなかったんですが、最近ミュージシャンってのは気楽な稼業だなあと、主に平日の昼間に思うのです。

平日の昼間とはつまり、一般的なサラリーマンが会社で働き、一般的な学生達は学校でせっせと勉強してる、そういう時間帯です。

そういう時間帯に、ミュージシャンである僕は何をやっているのかと言いますと、街をプラプラ散歩したり、昼間っから部屋でウッディアレンの映画を観たり、美味しいカレーを食べにガタゴトと電車に揺られて遠くの街まで行ったり、そんなことをしてる訳です。

ね?
気楽な稼業でしょ?

さらに散歩に行くのさえ面倒なときは、テレビで『ちい散歩(地井武男の散歩番組)』を観たりして、もう散歩すら他人にお任せで自分はソファーでボケーっと見てるだけだったりするのです。

しかししかし!
以前から言ってますが、この散歩したりとか、映画観たりとか、カレー食べたりとかが、ものを作る人にはとても大事なんですね。

受験生が勉強しないといけないのと同じくらい、僕らは散歩したりしないといけないのです!
(うーん、ちょっと説得力に欠けるなあ、、)

まあ、そんな大げさなことではないですが、実際問題、一人で旅したり、知らない街を歩いたり、人の何倍もの映画を観たり本を読んだりCDを聴いたり、そういうのはすごく大事な訳ですね。

まあ、昼間っから部屋で映画を観てるのは、サラリーマンが会議をしてるのと同じようなもので、散歩してるのは営業の人が外回りしてるのと同じであると。
仕事してるようには見えないかもしれないが、これだって立派なお仕事の内なんだぞ!

とまあ、そんなことを自分に言い聞かせて、ぶらりぶらり気楽な稼業をしてる訳ですが、そうはいってもやはり罪悪感がふつふつと生まれてくる。

真っ昼間に1人ぽつんと公園を散歩なんかしてると「こんな事してていんだろうか?」と、何一つ悪い事をしてる訳でもないのに罪悪感にかられてしまう。

家に親戚の子供が来たりして、やむを得ずもその子と遊ばなきゃいけない、なんてことになると、それこそ罪悪感がすごい訳です。
「俺、真っ昼間に子供と遊んでていいんだろうか??」とね。

そうなんです、ミュージシャンという仕事は、この『罪悪感』に打ち勝てるかどうかの仕事なんです!!

詞とかメロディーとか、プロデュース能力とか、そんなことではないのです!
『罪悪感に勝てるかどうか』
そこが重要なんです!

そんなもん誰でもできるわ!!
と思ったそこのサラリーマン諸君!
実際にやってみてほしい、1週間会社を休んで、毎日昼から公園をぷらぷらしたり、DVDを観たり、パスタかなんか作ってみたり、みのもんたの番組観たり、YOU TUBEでどうでもいい映像を探してみたり、そして一番の仕事・親戚の子供と遊ばされてみたり。

もちろん、それらを友達と楽しくとかじゃないですよ、昼間に1人でですよ。

絶対、3日くらいで「俺、こんなことしてていいのかな?」と罪悪感が湧いてきます!
そして4日目には「このままじゃヤバそうなんで、とりあえず会社に連絡だけでもしてみよう」となって
5日目には会社に出勤するか、英会話スクールとかスポーツジムとか、なんかちょっとでも意味のありそうなことをし始めますよ!

つまりその時点で『罪悪感』に負けてしまったのです!!
ドーーーーーーン!!
ミュージシャン、アウトーーー!!

その罪悪感に打ち勝って、毎日あっちぷらぷら、こっちぷらぷらできる、それがミュージシャンの鉄の心臓なのです!

今この瞬間すら、僕は罪悪感と戦ってるのです!
一般の人達が会社に行ったり学校行ったりしてる真っ昼間の1時30分に、僕は原宿のカフェでこんなゆる~い文章を書いていていいんだろうか?と。
はたしてこれを「仕事してんだ!」と胸はって言っていいんだろうか?と。

そうなんです、そういう罪悪感に勝てる者のみが、ミュージシャンという気楽な稼業につける訳です。

そんなんなら俺にだってできるわ!!
と思った読者諸君

じゃあ、やってみ!

たぶん、できるよ。

<2014年のあとがき>
文中に『ちい散歩(地井武男の散歩番組)』って書いてるとこに時代を感じますね、わざわざ()で説明してるところを見ると、おそらく一般的にまだちい散歩が有名じゃなかった頃に書いたものですね。
こういうなんでもないけど時間の経過を感じるとこに、昔の文章の可笑しさと切なさを感じますね。
そして『罪悪感』
ほんと今でもこれとの戦いです。
罪悪感っていうのは不思議なことに昼に起こるものですね。
どんなに夜遅く(あるいは朝早く)まで飲んでても罪悪感は起こりませんが、お昼から飲むときはやはり「いいのか?」ってちょっと思いますからね。
でもそういう日常と違うことをした時にこそ、意外なアイデアって生まれますからね。意図的に罪悪感が起きそうなことをやってみる、というのもたまには良いのかもしれません。