ワタナベイビー

ホフディラン待望のニューアルバム『Island CD』のリリースを記念して、ワタナベイビーと小宮山雄飛のソロインタビューを敢行。
前作からアルバムに至るまでの道のり、それぞれの楽曲が生まれた日々の思い、ホフディラン&相方への愛と欲望をたっぷり語り尽くす!

また次を作るんだって気持ちはずっとあった

アルバムの話はいつぐらいから出始めたんでしょう?

直接的にはタワーレコードのレーベルの方から声を掛けてもらったのがきっかけですが、ずっと曲を作り続けてアルバムを出すという人生だったので、また次を作るんだって気持ちは僕の中ではずっとありましたね。時代がどうとか分かんないけど。

前作『帰ってきたホフディラン』が出てから今回のアルバムまでの5年間は、ベイビーさん的にはどんなモードだったんでしょう?

2017年の7月に『20周年最後の晩餐』ってライブをやって、10月に『帰ってきたホフディラン』を出してツアーをやって。2018年に長女が生まれて、その年の10月に浅草公会堂で『ワタナベイビー生誕50歳記念ライブ』という僕の誕生日ライブをやった頃から、どんどんバンドが良くなってきた。浅草公会堂という場所は、当時のホフディランとしては、ちょっとキャパ的に無理もあったんですけど、がんばってやって、それが良かったんですね。

2020年には、森七菜ちゃんの『スマイル』のカバーも話題になりましたよね。

そうそう、2020年2月に今回のアルバムに入ってる『デジャデジャブーブー』ができて、2020年代のホフディランができた!という手応えがあったんです。で、やるぞ!っていう時にコロナが来ちゃったんだけど『スマイル』が追い風になって、いい感じに曲ができていって…。結果的にホフディランはコロナの期間中にすごく良くなりましたね。

それはすごい。ライブができない状況をネガティブには考えなかった?

もちろん、月イチでやるはずだった「ホフディランの新曲発表会」というライブも全部中止になったし、経済的には打撃だったんですけど、中止も何だしってことで、中止になったライブのリハをやってる写真をファンに届けようってことになったんです。洒落で(笑)。それが毎週恒例になっていって、ユウヒとマネージャーの坂本くんも加えた三人で週に一回会うようになった。特に目的もなく、軽いリハをやるぐらいなんですけど。

50歳の大人が目的もなく週一で会うって、今の時代、なかなかないかも(笑)

それこそ90年代は忙しくて、会うって決めなくても会ってたけど、20年もやってると状況は違ってきますよね。ここ10年ほどは、ライブとかリハとか、ちゃんとした用事がないと会わない時期もあったんだけど、週に一度、必ず会ってたのは今回のアルバムのためにも、すごく良かったと思います。結果的には、その時に生まれた曲は少ないんだけど、『キミが生まれたから』は、新曲発表会用に描き始めた曲です。

娘が産まれて、やっと生まれ変われた

『キミが生まれたから』は、娘さんの誕生をきっかけに生まれた曲ですよね。ベイビーさんにとって子供が産まれたことは大きかった?

そうですね。娘の前に、2012年に生まれた長男もいるんですが、その時は僕、生まれ変われなかったんですよ。当時はまだ「お前が生まれても俺は俺だ」って感じで(笑)、今思えばバカみたいだけど、「普通のパパに成り下がるのか?」みたいな葛藤があって、すごく踠いてたんですね。で、その時に結局、親になれなかったという後悔もあって、娘が産まれた時、こいつらに自分を捧げよう!と思ったんです。

それは素晴らしい! 「俺は俺だ」って思ってたベイビーさんが、そう思えるようになったのは、何故だったんでしょう? 奥さまの教育?

それもなくはないけど、なんていうか「これが自分が変われる最後のチャンスだ」と思ったんですよね。このまんま、グジグジ「俺はパパでなくソングライターだ」って意地を張り続けるのか、パパもソングライターもどっちも楽しむのか。どっちの人生を取るか?という分岐点で、長男が生まれた時は一歩を踏み出せなかったんだけど、娘が産まれたことでやっと、よし、どっちも楽しもう!と踏み出せた。

まさに「キミが生まれたから僕は生まれ変われた」ですね。実はお子さんのことに限らず、ベイビーさんの中でずっと「自分を変えたい」という気持ちがあったのかも。

バンドも低空飛行ってわけじゃないけど、ここ10年ほどは同じ高さでずーっと飛んでるような状態で、別に曲がヒットするわけでもなく、でも時々タイアップの話があったり、天の恵のような出来事もあって。何もなければとことん落ちて、解散するなり何なりあったのかもしれないけど、それもなくずっとやり続けていて。変わりたいけど変わるのが怖いみたいな状況だったから、子供に乗っかって自分を変えたかったのかもしれない。いや、間違ってましたね。夜寝て朝起きてるようじゃダメだ! とか思い込んでたけど、今は朝ちゃんと起きるようになって、いろんなことが二倍楽しめてる気がします(笑)。

『ガンバレ小中学生』も、お子さんがきっかけで生まれた曲ですよね。

これは長男が小四になって塾に通い始めて、送り迎えをするようになったんです。で、塾の前で車を停めて待ってたら、子供たちがたくさん出てきて。それを見て、うわ、今の子供はこんなに忙しいんだ! ガンバレ!と思って生まれた曲。それまでは見ず知らずの子供にガンバレと思うような人間ではなかったんですよ。だから、うわ、自分よその子に対してガンバレなんて思ってるよ!って(笑)。

そんな自分が嬉しくもあり?

そうですね。子供ができたからか、年齢的なものかはわからないけど、以前なら同じ風景を見ても絶対そうは思わなかった。そんな自分をおもしろがってます。

自分の人生と関係ない曲ができ始めた

お子さんが産まれてから、作る曲が変わったりはしました?

どうだろう。娘が成長していくのを見ていて、すごくおもしろいんで、以前だったら「これはネタになる!」って曲にしてたと思うんですけど、実はこの二曲以外は子供が関係ある曲はないし…。以前は僕、自分が実際に体験したことしか歌にできなかったんですよ。でも、最近は自分の人生とあんまり関係ない曲ができるようになってきたかも。たとえば『デジャデジャブーブー』とか『スレンダーGF』は、自分の体験でもなんでもなくて、何のことを歌ったのか自分でもわからないまま、なんでかできた曲で。娘が産まれて以降、そっち方向に曲の作り方が変わっていきましたね。

それは興味深いですね。「我がことを歌うシンガーソングライター」みたいな一人称の世界から、いい意味で解放された?

かもしれませんね。別に、意図的にシュールを狙ってるわけでもないんだけど、歌の主人公が誰なのか、男性なのか女性なのかもわからない。自分でもおもしろいですね。

正体不明といえば、『ココカラ銀座』のコジコジも年齢性別不明の宇宙生命体ですよね。

コジコジとは『コジコジ銀座』以来、久々のコラボレーションで。これは「CMのオファーが来てます、締切は明後日です」みたいなとこから始まった曲です。当時、ユウヒがあんまり新曲を出してなくて、新曲をすぐに作れる状態かわからなかったので、とりあえず一曲は出しとかないとCMを取り逃がしてしまう!と思って、その日のうちに書いたんです。

それはすごい。ベイビーさんはユウヒさんに比べると不器用な印象もありましたが、曲作りに関しては器用というか、ある種の天才型ですね。

いや、ちょうどその頃、ワタナベイビーのソロで「作詞作曲ライブ」というのをやってて。お客さんが書いてきたお題を引いて、その場で作詞作曲をするということをずっとやっていたので、同じように「サプリのCMで、でもコジコジのことも歌わないといけない」みたいなお題を自分に出して、「コジコジってどういう存在なんだ? 男性でも女性でもない飛び抜けた存在で、いわば最強サイケデリックだ!」って(笑)。

大喜利的な(笑)。でもコジコジは「遊んで食べて寝てるだけだよ、なんで悪いの?」とか、ほっこりしてるけどブレないし、単純なのに本質を突いてくる。まさに最強サイケデリックですよね。

言ってみたいけど、なかなか言えないことを言ってくれるのがいいよね。ジョン.レノンとか、あと(横山)やすしとか、勝新(太郎)とか。こんなこと言ってみたいよ!ということを言えるのが、天才の特権なんで。『ココカラ銀座』は、そういう天才について歌った曲です。

interview by Keiko Iguchi