ワンアンドオンリー

僕は音楽が大好きでこの仕事をしている訳だから、基本的にはもう楽しい毎日だよ。毎朝ラッシュの電車に乗って通勤する同い年の友達たちに比べてそりゃー楽しくやってますよ、それはマジでありがたい事だと思ってるね。ただこういう仕事をしていてマジで大変だなあって思う時も多々あって、その1番は自分の名前を背負って生きているんだって所だね。

ホフディランもそうだし、小宮山雄飛個人もそうだけど、僕はそれを100%背負って生きている訳でしょ、それは当たり前のようで実はほとんどの人が経験しない位のプレッシャーなんだよね。つまりさあ、ホフディランがなんか失敗したとするじゃない、例えばCDの出来が悪かったとするよ、そういう時その責任を名前レベルまで100%受けるのはやっぱり僕と渡辺君だけなんだよね。つまりその原因がなんであれ、実はレコード会社の所為であれスタジオの問題であれエンジニアのミスであれ、一般の人はそんなの絶対分からない訳でしょ、ホフディランの所為なんですよ結局は。僕もそんなの言い訳する気無いよ、ホフディランなり小宮山雄飛なりの名前で出ている以上そこで言い訳する気は全く無いですよ、ただ正直言って俺一人が責任を負うにはあまりに沢山の要素が入り過ぎている時も多々あるんだよね。CDひとつ出すにもそうだしライブ1回やるにもそうだけど、そこにはホントに多くの人と色んな事情とタイミングとかその他諸々がいっぱい絡んでる訳だよね、それで本当にすっげー事っていうのはそういう全てが噛み合わないと絶対生まれないんだよね。でもそんな事っていうのは滅多にない訳ですよ、ライブでいうなら僕らも最高・スタッフも最高・会場も最高・音響も最高・客も最高・みんなの体調も最高・裏事情も最高・弁当も最高なんてのはまず無いわけ。それに一言で会場とかスタッフって言っても、それ自体もっと細かく色々ある訳でしょ、会場の広さから照明の出来からセキュリティーの態度までさあ。実際、前にすっごいいいライブしてるのに何故か客の盛り上がりが今イチっていう時があって、なんだろう?って思ってたら、どうも会場の温度が(実際のね)すごく低くてそれっぽいんだよね、それでアンコール前に楽屋で「会場の空調止められない?」って言ったりしたんだけど、やっぱ設備の関係でそれは出来なかった。そん時は演奏どうこう以前に会場の温度の問題でお客さんの盛り上がりがこれ程違うんだなって事が分かった訳。それと逆に小さなライブハウスなんかだと、温度高すぎプラス空調の調子によって酸素が行き渡らなくなって前の方の客が倒れたりする時とかあるしね。つまりさあそういうレベルまでの全てがバッチリなんて事は滅多にない訳だよ。だから僕らはそれを意図的に作らなくちゃいけない訳、つまり作曲とか作詞とかそういういわゆるミュージシャン的な仕事以上にそういう奇跡を起こす空気とか、人間関係とかそういうのを作るのも僕らの仕事なんだよね。ただそれはやっぱり出来る所と僕らだけじゃ出来ない所とある訳だよ、それは一般の人達は絶対見ない部分だけどね、やっぱりアーティストはみんなそういう空気を作るために色々やってると思うよ、だけど結局ミスった時とか誰の所為かってなったらアーティストひとりのせいなんですよ。別にそれ自体を嘆くつもりは全くないけどね、ただまあそのプレッシャーっていったらすごいもんだよ、ホント辛い時はすごく辛いからね。

例えばホフディランに何かすっげー事が起こって解散したとする。なんだろうねえ凄い事って、『渡辺慎、小学生の女子に猥褻な行為で逮捕!!』とかまあなんでもいいですよ、『渡辺慎、動物園の小人河馬に猥褻な行為で逮捕!!』とかまあなんでもいいですよ、『小宮山雄飛、下着泥棒を捕まえる、お手柄!!』とかまあなんでもいいですよ(ってこれじゃ解散にはならないな)、とにかくなんかあって解散とかするとするじゃない。それでも僕は一生『元ホフディラン』の名前を背負う訳じゃない、マネージャー含め関係者は絶対そんな事まではない訳だよ、転職した後に『元ホフディラン関係者』なんていう風には呼ばれない訳でしょ、ましてやファンとかが『元ホフディランファン』なんてならない訳でしょ。僕と渡辺君は違う訳じゃん、これから何があろうとも絶対一生『ホフディラン』か『元ホフディラン』な訳でしょ。だから何やるにもそりゃーすごいプレッシャーだよ、ミスったらそれはイコール自分の名前に泥が付く訳だからね。だから最近つくづく芸能人とかってやっぱすごい大変だと思うよ、自分の名前で(芸名にしろ)食ってる訳だからね、○○会社の○○部の社員の○○とかじゃないからね、そのまま自分の名前でそのまま自分の顔出して仕事してる訳だからね、そりゃー普通じゃ考えられないプレッシャーだと思うよ。だから実際の芸がどうのこうのって以前の時点でもうすっげーみんながんばってると思うよ。

まあそんな訳で色々と大変な時もある訳だけど、僕らはサッカーでいうなら選手であり監督であると思うんだよね。まあプロデューサーのいるグループとかは監督はその人かもしれないけど、僕らの場合は明らかに監督業もしている訳ですよ。でさあサッカーとかで監督っていうと、細かく目標とかが定められててそれに応じた評価を受けるじゃない。今回はこういうメンバーで今はこの位のチーム力だからまずは4位を目指しましょうとか、2年後の本大会に向けて形作って行くので今回はこの位で行きましょうとかさあ。必ずしも毎回優勝が目標じゃない訳でしょ、だから選手の状態とかバックの状態に応じてそれをどこまで上げたかってのでちゃんと評価がされる。だけど僕らの場合そこら辺のチーム状況っていうのは基本的に見せない所だからさあ、だから監督という意味ではちゃんとした評価をされる事がないんだよね。サッカーチームと同じでチーム事情は各々その時々違う訳だよ、例えば同じ曲でもレコード会社によって扱いは違うし、ジャケットのデザインで出来る事とかもホント全然違う訳。バックのメンバーの調子だってその時々で違うし、それこそスタッフ同士の人間関係とかそもそも予算の違いとか、とにかくそういうチーム事情っていうのは本当に各バンドその時々で違う訳。だけどサッカーチームと違ってそういう細かい状況っていうのを表には出さない訳だから、どの位のチームをどの位まで上げたのかってのは表には分からないんですよ。それはしょうがない事だし、逆にそこを見せちゃいけないってトコもあるからまあホントしょうがないんだけど、でもやっぱすごくがっかりする時あるよね。つまり僕が20位のチームを3位に上げる位の結果を出したとしても、そもそもチームが20位の状態だったって事はみんな知らない訳だからその3位っていう結果に対して「まーまーだったね」みたいに言われるとホント腹が立つよね、「分かってねーなこいつ」っていうより「やっぱそこまでは伝わらないんだな」っていう虚しさっていうかさあ、なんかそんな感じの時はあるよね。じゃあ俺が声を大にして「もともと20位のチームだったのを俺が3位まで上げたんだぞ!!」なんて言うかっていったら、もちろん絶対言わないよね。それは言わない方が得だと思うから。逆に「まーまーだった」って言われようとも元々3位だったって思われた方が得みたいなとこもあるしね、まあ結局騙し合いみたいなとこもある訳ですよ。だからそういうチーム事情みたいのは絶対見せないんだよね。同業者同士でも見せなかったりするもんね、どんなに中がグチャグチャになってても表には「うまく行ってますよ」みたいに言ったりさあ、やっぱ良い意味で手の内を見せない方が良い訳でしょ。

だから最初の方に僕は言い訳する気無いって書いたけど、ホントそうなんだよ。言おうと思えばいつもいくらでも言えるよ「今回は誰々のミスでこうなった」とか「実はこうこうこういう事情だった」とかさあそんなのいくらでもあるからさあ、マジで全部言えたら僕らとしてはすごい楽だなあって事だらけだよ、ファンの不満や不安を全部解消する事だって出来るんだよ。でもそれは絶対言わないんだよね、どんなに誤解されていようともそこは絶対に言わない所なんだよね。それを言っちゃうと全てが崩れてきちゃうし、第一に俺自身にとって得じゃないんだよね。

だから僕らはほんと、ワンアンドオンリーなんだって思うね、特殊って意味じゃなくね。もう僕自身がホフディランであり小宮山雄飛なんだからね、そのスタッフでも家族でもファンでもない、何人もいる内の一人じゃ無いんだよ僕自身が全てなんだからね、別に偉そうな事を言ってるんじゃなくてね。だからホフディランっていう名の付く物、小宮山雄飛の名の元に行われる事全てに目をやらなくちゃいけないし、それが実際は誰かの所為だとしても全部の責任を負わなくちゃいけない、でもって言い訳はしちゃいけない。それはそれは大変な事だけど、逆に本当に面白いライフワークだよね。だからやめらんないだろうね、この仕事は。もう転がり始めちゃったんだからね、石は。