吐く女

僕の知り合いで、よく吐く女がいる。
 
あえて名前や関係性は伏せておこう、なにしろよく吐く女ですから、彼女の方もそんなことをインターネットというこれ以上ない公共の場において公表されるのは困る(というか恥ずかしい)だろうし、そのショックでまた吐かれたりしたらこちらもまた困るという、まさにゲロによる無限連鎖地獄に陥るのは、お互いにとっていささか無意味な戦いになるだろうから、名前はとりあえず伏せておきましょう。
 
その女性は一緒に飲んでても、あまり辛そうな表情は見せない。むしろ潰れるやつや帰ってくやつがいる中で、最後まで実に陽気に飲んでいる、しかしちょっとした会話の途中でさらっと「今、吐いてきちゃった、、」と申告する。
 
こちらは「え????」ということになるが、その後も結構陽気にしてる。
こう言うと、飲んでる最中にあえて自分で吐いてるように思いがちだが(学生の頃の飲み会の様に)、そういう訳ではなく本当に吐きたくなって吐いてるのです、べつに自分で指つっこんで吐いてるとかではありません。
 
この間なんかは、散々飲んだ後に、歩きながら一瞬電柱の陰で見えなくなったと思ったら「ポトポトポト、、、」と音がして、「え!?」と思って振り返って見ると、すぐに出て来てまた普通に歩いてる。
「今、吐いたの??」って聞いてみると、「ううん、全然大丈夫だよ!」などと言い張ってるんだけど、明らかにその時プティ嘔吐してたはずなのだ、その間わずか5秒位である!
 
もし『早食い選手権』ならぬ『早吐き選手権』があったとしたら、間違いなく彼女は上位に食い込むはずだ。
しかしまあ、よくよく考えてみると僕も最近、喉のわりと浅い辺りまで食べた物が上がって来てるような感覚の時がある。
胃酸過多というのか、胃が衰えたというのか、正確な呼び名は分らないけど、そういう吐く手前の状態のことが、以前に比べて多くある気がします。
 
これ、考えるに30歳前後に起こり安い現象なんじゃないかと思うんですよ。
つまり、まだまだ『欲』があるから暴飲暴食する、しかし『身体』は確実に以前より消化しなくなってる。この『欲』と『身体』のバランス、つまりは『心』と『身体』のバランスにより、飲みたいから飲んじゃうけど、消化されずに吐いてしまうという、そういう現象が起きてるのではないかなと。
 
50代・60代で吐いてる人というのはあまり見ない。いや、新橋なんか行くといますよ実際、でもやはり50代・60代の人というのはそれなりに自分の飲む量が分かってるし、そういう意味での変な欲とかない気がすんですよ。
悪く言えばもう枯れてる。。。そもそも吐く程飲む気がおきない。
 
逆に20代とかはもちろん新宿・渋谷・下北沢辺りでよく吐いてますが、それは単純に量を飲み過ぎたからであって、身体自体は実に健康だと思うんですよ。だから変なタイミングでは吐かない。
明らかに飲み過ぎた人物が、しかるべきプレイス(ex.つぼ八の店頭)でしかるべき姿勢(ex.前方しなだれ型)で吐いてる。
 
それに対して30歳前後の人は、『心』と『身体』のバランスが崩れた時に、思わぬタイミングで込み上げてくる。
それゆえに、先ほどの知り合いのように笑顔で飲みつつもいつの間にかトイレで吐いていたり、電柱の陰でほんの5秒でプティ嘔吐をしたりしてしまうのです。
これって30代の人にすごく多い現象だと思うんですよ、飲んで吐くというだけじゃなくね、色々な状況において『心』と『身体』のバランスが崩れた時に、思わぬタイミングで思わぬ症状が押さえ切れずに込み上げてくるっていう。
いきなり『泣く女』とかね、あと突然『失踪する男』とか、みんな30歳前後な気がしますね。
そう考えると『吐く女』ひとつとっても、観察してると色々なことが分かってくるので、人間観察というのはやっぱり面白いなと思う今日この頃なのです。