音楽でも本でも映像でもなんでもそうなんだけど、そん中に『入っちゃう』時ってあるでしょ。俺にとっては曲なんか特にね、聴いてて完璧に入っちゃう時あるんですよね。
まさにショートトリップというやつですね、曲の中に完璧に入っちゃう。例えばなんか他の事をしながらCDを聴いてたりしても、その曲の間中すっかり手が止まって聴き入っちゃう状態。そういうのあるよね。
それって曲の種類によるんだよね。入っちゃう曲と入らない曲っていうのは、必ずしも良い曲とそうでない曲という訳じゃないんだよね。そこが不思議な所でもあるんですけどね。
大まかに言うと、やっぱり歌ものっていうのは入りやすいよね。きっと楽器の音だけじゃなく人の声がある事で、歌（詞）を聴こうとして自然とグイグイ入っちゃうんだろうね。
だからと言ってインストの曲が入りづらいかと言うとそうでもない、歌詞もない、同じリズムの反復のテクノとかもそれはそれでグイグイ入っちゃうからね、一概に歌ものが入りやすいとは限らないのだね。
創るサイドからすると、この『聴き手を入れるかどうか』っていうのは大きな分岐点でもあると思うんだよね。『入っちゃう』のってそれはそれで疲れるでしょ。だからBGM的な音楽って逆に入らない様に作ってると思うんだよね。ラウンジ系の曲とかボサノバとかはさ、聴き入るような作りよりは生活のバックで流れてて自然に馴染むようになってるよね。
本なんかでも、雑誌とかってのはむしろ入らないで軽く読み飛ばせるようにカタログ的に作ってるよね。そうじゃないとみんな駅の売店で気軽に買って読まないでしょ。逆によく出来た小説なんかは、読み始めるとホントその世界に入っちゃうよね。あれ不思議だけど、江戸時代の話とかさ、中世のヨーロッパの話とか、そんな世界我々は実際は全く知らないのに、よく出来た小説読んでるとすっかりそこに居るかのように引き込まれる時あるよね。
でもまあこの『入っちゃう』ってのは時としてホント疲れるでしょ、まさにショートトリップだからさ、旅行行くのと一緒。旅行ってホント面倒くさいし疲れるでしょ、でも行ってる間はまさに日常とは別世界だよね。それと一緒、音楽でも本でも映画でもショートトリップさせるものってすごく楽しいけど、それなりの心構えとかが必要。だから僕とかやっぱりその日の精神状態とかあるいは実際の時間とかで聴く曲選びますよ。あんまりドシっとしたトリップをしたくない時はやっぱりもうちっとBGM的な音楽を選ぶ。
例えば女の子とドライブしてる時とかね、やっぱりそこでは相手との会話とかの方が大事な訳じゃん。そんな時に自分の超お気に入りの『入っちゃう曲』とかかけちゃうと、すっかり無口になってその曲の世界に入っちゃうから駄目なんだよね。アーティストで言うとR.E.Mとかはそういう意味では僕にとってはBGMになりづらい。ベルベットアンダーグラウンドとかもね、聴き始めるとすっかりその当時のN.Y.に感覚が行っちゃうから、ドライブしてても全然楽しくないと思う。部屋で一人で聴く方が断然良いと思う。
僕とかの場合、自分の曲もやっぱり駄目ですね。完璧入っちゃうからさ。まあ自分で作った物だから当たり前だけどね、絶対BGMとしては聴けない。いくら仲間と居ても、自分の曲がかかったらきっともう一人っきりの世界に入っちゃうと思う、自分と音だけって世界にね。でもまあこの『入っちゃう』って感覚って、面倒くさくはあるけど、やっぱり作品創りの醍醐味でもあるよね。生活のBGM的な曲っていうのも個人的にすごく好きだけど、やっぱり自分がゼロから作り上げた世界の中に、聴く人達を完璧に入れられた瞬間っていうのはアーティストが最も充実した瞬間だと思いますね。ライブもそうだけどみんなどこか違う世界に『入る』ためにわざわざお金払って来てる訳だからね。
現代のライフスタイルにおいては逆に人を入れちゃわないで、あくまでカタログ的に物事を消化して行く文化っていうのもすごくポピュラーな気がするんだけど、やっぱりアーティストとしてはその世界観の中に聴く人観る人を入れちゃうっていうのはとても魅力的な事ですね。そればっかだと疲れるけどね。
ちなみによく出来た曲って、デモのデモの状態（忘れないように鼻歌をテープに録音しておいたレベル）でもホント聴き入っちゃうんだよね。俺も歌詞もない自分の鼻歌レベル（しかも１０秒とかそこら）のテープを聞き返して「ウワー！！」とかって一人で入っちゃう事がよくありますよ。で、何度も何度もそのテープを一人で繰り返し聴いちゃう。自分の１０秒くらいの鼻歌のテープを繰り返し繰り返し聴いてるってのも、それはそれでマヌケな光景だけどね。
という訳でうちには今現在そんな曲がまだまだ沢山ありますよ。そいつらはいずれちゃんとした曲の形になって、また皆さんをグイグイと引き込んで行く事になるでしょう！！