僕を救った鍼とカレーの関係

今だから言える事なんだけど、実はユウヒーズの『AMERICAN SCHOOL』を発表した後、ツアーが終わった辺りからすごく喉の調子が悪くなって、たまたまそっから半年は海外生活をする事になってたんでまだ良かったんだが、本当に音程とかが全然取れなくなっちゃたんだよね。
 
自分の狙ってる音を出そうとしても、どうしても音程が揺れてしまう。自分で気付いてないとかじゃなくて、分かってるんだけどどうしても狙ってる音程が出ない。特に高い音になると本当にどうしても狙い通りに出ない。
 
ステージでどうとかレコーディングでどうとか、そういうレベルですらなく、自分の家でピアノでちょっと歌うのにも全然思い通りに歌えない。デモテープを自宅で作るのすら本当にイライラする。
 
頭の中に歌は出来てるんだけど、それを歌おうとすると思うようにそのメロディーを歌えなくて、本当にもうすっごいイライラする。せっかく良いメロディーとか出来ててもそれをうまく歌えなくて何度も挫折して、結局作曲そのものをやめてしまう様な日々とかが続いたんだよね。
 
で、一旦日本に帰ってきてイベントに出た後の打ち上げでメンバーに冗談じゃなく「もう歌うのやめようかと思ってるんだよね」って相談してたんですよ。まあなにもミュージシャン自体をやめる訳じゃなくて歌うのをやめるってだけだからね、っていう位の気持ちでね。自分に言い聞かせる様に「シンガー小宮山雄飛はもう終わりでいいか・・・・」って感じでいたんですよ。
 
もちろんその間に病院にも通ってたんだけど、まず昔からずっと行ってた耳鼻咽喉科に通って、今度はそこで紹介してもらった病院に移って、最後は知り合いのミュージシャンに紹介してもらった遠くの病院まで行って。でも全然直らなくて、だけど音程がとれるとれないっていうのは喉そのものが荒れてるとかポリープがあるとかで声が出ないとかそういうはっきりした症状じゃないからね、色々薬を変えたりしたんだけど病院サイドも最終的には「これ以上はどうにもならない」って感じになっちゃって。もうマジで絶望的だったんだよ。
 
でもってある時、喉とは全然関係ない理由である鍼治療の先生の所に行ったんだよね。その先生はたまたまうちの親父の知り合いだったんだけど、あのビートたけしさんがスクーターで事故った時に、あの顔を元に戻した(という表現でいいのかな??)というすごい先生で、わりとミュージシャンとかもその先生に頼ってる人が多いらしいんだよね。
 
こっちは全然そんな事知らなかったんで、喉とは直接関係ない事でその先生の所に行ってたんだけど、先生が「君、シンガーなんでしょ、じゃあ喉もやっといてあげるよ」って感じで鍼をやってくれたんだよ。そしたら、なんと信じられない事にその日の夕方には音程が全然とれるようになってた!!
 
約1年位に渡ってあっちこっちの病院に行って、色んな薬を試して、結局「もう駄目か・・・」ってなってた喉が、その先生に鍼を打ってもらったらその日の夕方には直ってたんだよ!!俺はもうその日はマジで嬉しくなって、それこそ何時間も自分の喉が直ったのを確かめる様にピアノ弾きながら歌い続けたのを憶えてます。
 
今でもレコーディング・ライブの前は必ずその先生の所に行って鍼を打ってもらってるんだけど、本当にこの先生ばっかりは命の恩人に近いですね。
 
で、その先生のとこに初めて行った時さあ、この先生は本当にすごいんだろうな!!という出来事があったんですよ。それは、その当時俺マジでカレーにハマってて東京中のカレー屋を制覇するぜ!!ってモードで当然毎日カレー食べてた訳。そしたら針を打ってもらった帰り際にその先生が受付のとこに出てきて一言「あんまり辛いもの食べ過ぎないようにね!!」って言ったんですよ、もちろん毎日カレー食ってるなんて事はその先生には一言も言ってないんだよ。
 
例えばお医者さんが内視鏡で胃とか見てさあ「辛いもの食べてますね?」とかならまだ分るよ。でもその先生は鍼刺してるだけなんだよ、それで突然「辛いもの食べ過ぎない様にね」ってなかなか言えないよ!!「不規則な生活しないようにね」とかさあ「お酒飲み過ぎないようにね」とかそういうのはまだ言えるじゃん、こっちがミュージシャンだって事も知ってるしね。でも突然「辛いもの食べ過ぎないようにね」って言えるか?こっちが「辛いもの苦手なんで元々あんま食べてないです」って答える可能性だってある訳じゃん。
 
友達にこの事話したら「きっと鍼刺したところからカレーの匂いがしたんだよ」って馬鹿にされたが、そんなこたーさすがにないだろう。いや一万歩譲ってカレーの匂いがしたとしても「今日お昼カレー食べましたか?」くらいしか言えないだろうよ。鍼を刺しただけで僕がその頃辛いものばっか食べてたという事までズバリ当ててしまったんですよ、その先生は!!
 
まあいいよ、カレーの事に関して友達がこの先生の事をどう思おうと。とにかく1年近く直らなかった僕の喉がこの先生に針を打ってもらったその日の夕方に直っていたというのは僕の中で紛れもなく事実なのだから。