ピリ辛

レストランのメニューでよく『ピリ辛』っちゅーのがあるけど、あれってすっごい曖昧な言葉だと思うんだよね。「ピリ」って何だ?まあもちろんそれが「ピリリ」の略あるいは同義語であろう事くらい少し考えれば俺にも分かる。しかし分かっていてもつい「ピリ」って何だ?と突っ込みたくなる。そしてそれ以前に「ピリリ」って何だ?とまで思えてしまう。
 
まあ「ピリ」にしろ「ピリリ」にしろその曖昧さに変わりはない訳で、おそらく本格的に辛いのではなく「ピリっと=ちょっと」辛いと言いたいのだろうけど、その「ピリ」の範囲が分かりづらい。『ピリ辛チキン』なんつーのを頼んで、全くもって辛くなかったらどうしたらいいんだろうか、それでも「うちのピリ辛はこの位なんですよ」って言われたらそれまでだ、文句も言えない。つまりこの「ピリ」には辛さの量(?)をすごく曖昧にする作用があると思うのだね。それに比べ「極辛」にはそんな曖昧さは存在しない、絶対的に辛いという作る側の自信とこれはマジで辛そうだ!という食べる側の恐怖が明確に存在している。つまり「極」という字は明確な意味をちゃーんと提示しているのだね。それに引き換え「ピリ」はどうだ?やっぱりなんか曖昧だと思わない?、しかもこの「ピリ辛」に〜〜風がつくともうかなり曖昧になってくる。「海老のピリ辛風サラダ」なんてなってくると「ピリ辛」かどうかも曖昧になってくる、もう辛いかどうかさえ怪しい訳だ。
 
第一にこの「○○風」っていうのは「ピリ辛」よりもっともっと怪しい言葉だと思う。よく「漁師風」とか「山賊風」とかそんなスパゲッティーとかあるけど、漁師が本当にスパゲッティーなんて食べてんのか?少なくとも日本の漁師はスパゲッティーという物からは最も遠い所に居る気がする。そして「山賊」なんて今だに存在しているんだろうか?僕は全く会った事がないしそいつらが何を食べていたかなんて誰も知らないはずだ、一般の人から隠れて生活していたのが山賊のはずなんだから。しかもそれに「〜〜風」を付けてしまってる訳だからこれはもう訳が分からない。まあ常識で考えれば「漁師=魚介類」「山賊=山の幸」というネーミングと材料の図式は分かるのだが、しかしやっぱり曖昧過ぎると言わざるをえない。「韓国風」とかも実に曖昧な表現だね、おそらくコチジャンで味付けてしてあるかキムチが乗っているかまあそんな所だろうけど、そこには何の保証もない。あくまで「〜〜風」だからなんの約束もないのだ、世の中にはそういうメニューが沢山ある「中華風」「ピザ風」「手作り風」これらは全て「〜〜風」だから実際はどんな物が出てこようが文句は言えない、中華ではなく中華風だし手作りではなく手作り風なんだから。っつーか手作り風にする労力があるんなら手作りにしろよ!と言いたくなる。
 
ここまで読んできておそらく多くの人は気付いたと思うが、僕はこれらの曖昧な言葉が実は大好きである。レストランでこういう恥ずかしい表現があればある程僕はついつい頼んでしまう。例えば「小悪魔風」これも実に曖昧で良い、なんてことない「小=ピリ」「悪魔=辛」と置き換えれば実は「ピリ辛」と同じなのだ。確かに「悪魔風」では誰も恐くて頼まないだろう、それじゃ辛いのかマズいのか、もしかしたら毒が入ってるのか全く読めな過ぎる、だけど「小悪魔風」だとなんとなく茶目っ気が見える「ちょっと辛いんだろうなあ・・小悪魔。俺に似てちょっと生意気でそれでいてやっぱり気になる存在、小悪魔。触ると火傷する、でも何故かひかれてしまうちょっと危険な男、小悪魔・・」なんて想像が膨らむ。そして同じ意味でも「ピリ辛」より「小悪魔風」の方がシェフがお洒落に見える、イタリアンジョークのひとつも飛ばしそうに見える。
 
そしてそんな曖昧なメニューの中で僕が今最もお薦めしたいのが「シェフの気まぐれサラダ(別にサラダでなくてもいいのだが・・)」だ、これはもう曖昧の極地、とにかく気まぐれなんだから何がどうなってるのかさっぱり分からない。「今日はホウレン草の気分だからホウレン草だけ!!」とか「大根余っちゃったから大根すっげー多め!!」とかもうシェフのやりたい放題な訳。でも大抵お店の人に「気まぐれサラダって何ですか?」と聞くと「普通のサラダの上にキノコが乗ってまして・・・・」等々その内容を教えてくれる、そういう時にいつも思うのだが全然気まぐれじゃないじゃんか!と、もう決まってるんじゃんか!と。本当に気まぐれだったら「どうですかね、とにかく気まぐれなんで、ちょっと私にも分からないんですが・・・」とか「先程のお客さまが頼まれた時はコーンがどっさり乗ってたんですけど、その前のは確か茹でたニンジンが・・・昨日はマカロニが・・」っつー感じに答えるべきではないか。せっかく「シェフの気まぐれサラダ」なんてうたってるんだから、どうせならもっともっと気まぐれにやるべきじゃないか。もうサラダの具の内容とか以前に「気まぐれなんで今日作るかどうか・・・」とかその位気まぐれてみてよいんじゃないか。それか「シェフの気まぐれ風サラダ」なんつって本当はすっごい真面目な堅物シェフなんだけど、サラダの時だけはちょっと気まぐれ風に、ちょっとワイルドに挑戦してみるっていうのもよいと思いますね、あくまで「〜〜風」だからね、ちょっと照れつつね。
 
僕がよく行く街に『気まぐれコーヒーハウス』という店があるんだけど、これはもうすごいね、店そのものが気まぐれと言ってるんだから相当のものですね。実は僕はコーヒーを一切飲めないので(スターバックスのラテは別ですが)もちろんこの店にも入った事はないのだが、一体どんな物が出てくるのだろうか、何の気無しに「はい紅茶ね」なんて紅茶を出したりする程気まぐれなんだろうか、それだったらすごい嬉しいなあ。そしてそもそも僕はこのお店が開いているのをほとんど見たことがない、もしかしたらそれ自体気まぐれのなせる技なんだろうか、営業時間も気まぐれなんだろうか。このホームページも含め僕も残りの人生をこれからは相当気まぐれてみようと考えている今日この頃である。