slow in fast out

僕はものを創るという事においてINとOUTというのがすごく大事だと思っている。ものといっても別に物体という意味じゃなくて、詞や曲あるいは企画やデザインなどクリエイティブな活動全般に関してです。INとはこれ即ちアイデアなんかを自分に吸収する事、例えば映画を観て感動したとかまあそんな事ですね。OUTとは自分の中からアイデアとかを出すこと、作詞作曲なんかもそうだし絵を描くとかってのもそうだよね。

ではそのINとOUTがいかに大事かって言うと、まあ簡単に言えばINがなきゃOUTは絶対ないんだよね。物を食べれば栄養になっていずれエネルギーになったりウンチになったりする訳でしょ、それと同じで全てはINとOUTによって生まれると思うんですよ。スポーツなんかで例えるとINは練習でOUTは試合だったりするよね。このバランスというか如何にINして如何にOUTするかというのがすごく重要だと思うわけです。練習で技術をINして試合でその技をOUTするみたいな感じでね。

でもって特にクリエイティブな仕事をしている人はやっぱりINがなきゃ絶対出来ないと思うんだよね。だって何もないゼロのとこから曲とか詞とか絵とかギャグとかを創り出すわけでしょ、だから日ごろ人一倍INしてないと出来ないでしょ絶対。普通の人が何も感じない所に感動とか笑いとかを見い出せるようじゃないとそういう仕事は出来ないでしょ。だけどそこで大事なのはINするっていうのは別にネタ探しするってのとは違うってことだと思うんだよね、別にINしたネタをすぐにOUTするって事ではないと思うんですよ。

僕はINを常に行っています、例えば居酒屋に行ったりするとすぐ隣の親父達の会話とかに聞き入ったりします。ラーメン食べに行っても普通の人がただ食べている間僕は店の雰囲気を見回したり主人の動作を観察したり、ラーメンを食べている人達の表情を観察したりしています。別に表面上の動作や様子を観察するというだけじゃなくて常に空気を感じるというか、感覚をむき出しにしてINしている訳ですよ。これがすごく大事な事だと思うんだよね、僕は。

一方OUTの方はと言うと、これはすごく簡単というかパサっと行います。作詞にしても作曲にしても出来ない時はサッサとやめて散歩行ったり気分転換をしたりします。OUTはあくまで自然にというか出る時にパっと出す、絶対無理はしないんですよ。だって無理して考えて作ったって絶対良い物は出来ないと思うんだよね、良いものは出す気さえなくても出る時にはスパーンと出てくるんだよ絶対。でもって自然にスパーンと出てきたものっていうのは他人から見てもやっぱりすごく良い、無理して作ったり色々作戦みたいの入れて作ったものってやっぱり他人から見ても絶対分かる、「こいつ○○風を狙ったな!」とか「こいつ絶対こんな事思ってもいないくせにこんな詞書いたな!」とか絶対バレる。だからOUTは絶対自然に行うのが良いと思う。

INは日々じっくり行って、OUTはスパーンと出す。つまり『slow in fast out』というのが僕のやり方なんですよ。これがすごく大事だと思う。

僕がギャグを言ったり新しいアイデアを言ったりすると、よく友達から「よくそんな事とっさに思い付くね!」と感心されたりするんだけど、そういう人達は日頃INを怠っているんだなあと思う。僕はもちろんコメディアンではないけど、コメディアンの人とかって日頃常にINを行ってないと突然アドリブでギャグとかって思い付かないと思うよね、だからやっぱダウンタウンの松ちゃんとか志村けんちゃんにしても日ごろ人一倍INを行ってると思う。僕は昔コピーライターの学校に一時期通ってたんだけど、そん時も「いいコピーが思い付かない」って言ってる奴に限って日頃全然INを行ってないみたいだった。しかもそういう奴に限ってOUTを一生懸命やる、何時間も悩んで悩んでコピーを考えたりする、INしてない奴がいくらがんばったって無い物は出ようがない。つまりそういう人は『fast in slow out』してるんだよね、それじゃ良いアイデアなんて生まれるはずがないよね。何度も言う様に日々じっくりじっくり色んな情報や感覚・空気なんかをINするというのが大事であって、それを怠っていながらいざOUTとなると時間をかけて頑張るなんて意味がないんだよね。あくまでfast outでしょう。

だけどslow inと言っても常にINするというのは別に常にネタ探しをするという訳じゃないんだよね。休みの日までいわゆる市場調査みたいのをしようって言っている訳じゃないんだよ。世の中・身の回りには感覚さえ研ぎ澄ませばもっともっと面白い情報や感動する景色なんか溢れているという事なんですよ。そしてその逆に感覚を研ぎ澄ますという事を怠っていると良い栄養というのが精神に入って来ないから、良いアイデアなんて生まれるはずがない。しかもそういう栄養っていうのはそう簡単には入らない、日頃コツコツ溜めていかないとだめなんだよね。これはすごく地味な作業というか大変な事だよね、例えば僕のすごく身近な人達でもほとんどの人は僕のOUTの面しか見ていないというか接していない訳でしょ。だから誰も僕が(あるいは渡辺君が)INしている所というのは身近なスタッフですら知らない。出来上がった曲や詞、あるいはアイデアやデザインに対して色々評価したりするけど、その前にある大きな大きなINという作業に関しては分からない。だからINというのがたまにすごく軽く扱われる時があるんですよ、INがなきゃOUT出来るはずないのに、みんなはOUTだけ見ているからINを軽く見る時がある。

『Washington,C.D.』を作る前に僕は2週間位の休暇を申請した、もちろんINするための期間としてである。最終的に休暇をもらえて僕はアメリカに行った。一切の音楽に関する物(ウォークマンとか)を持たずに行って、もう純粋に様々な感覚をINする為に友達とひたすらドライブしたり自然と触れたりしてきた、その結果僕はすごく良いエネルギーを得てきて良い曲が沢山書けた、特に『6/8』とかはアメリカに行ってなかったら絶対生まれなかったと思う。そんな休暇に関しても最初に僕が申請した時は「2週間も取れるはずないでしょ」という反応だった。別に僕はただ我がままで休みをくれって言った訳じゃなくてあくまで自分達の作品や生活のためというつもりだったんだけど、たぶんその時点ではINの大切さというのがちゃんと伝わってなかったんだと思う。長い目で見たらあの休暇ですごく良いINをした事が僕の去年一年のアルバムやツアーでの好調なOUTにつながったんだけど、INというのはとにかく他人が目で見て確認できる作業ではないからスタッフにしてみれば最初は「2週間も休んで...」っつー感じだったのかもね。でもその後シングル・アルバム・ツアーといった場で僕がINしたエネルギーをちゃんと形としてOUTしたから今では周りの人達もINする事の重要性を前より理解してくれていると思う、、、、、、思いたい。

だからこれからも僕は『slow in fast out』で行きたいと思ってるよ、毎日地道にINを続けて出す時はスパーンとOUTする。例えその地道な努力が身近な人にすら理解されなくとも、そのINを怠ってしまったら僕自身が辛くなってしまうから絶対にそこだけはちゃんとしなくちゃいけない、そしてそうやって溜めた感覚をフルに使って最高のOUTを行った時は胸を張って「どうだ!!」と言えばいいのだ。結局はみんなそのOUTで評価されるのだから。