TALK SHOW by Yuhi Komiyama

マフラーをよろしく

男にとってマフラーとは、極めて切ない、極めて想い出たっぷりのアイテムなんじゃないかと、真冬の寒い日に久しぶりにマフラーを巻いて思った。

そもそもマフラーというのは男女比で考えた時に、確実に男の方がする事が少ないのじゃないかと思う。
つまり、女性の方がマフラーに対して比較的日常的というか普通の感覚を抱いていて、男性の方が特別な時(ようは特別に寒い日など)にするものという感覚でいるんじゃなかと思うんですよ。

などと書きながら、思えば同じ日本でも僕の住む東京と、北は北海道、南は沖縄ではマフラーに対する感覚は全く違うだろうから、そんなに偉そうに断定はできないので、どうかこれからの文章は東京に住む僕のあくまで個人的な解釈と思っていただきたい。

などと言いながらも、一応僕の説が正しいかどうか確認するために、1月の寒い日の東京の街角を歩いて、男女のマフラー率の違いを検証してみた。
およそ10分間ほどほっつき歩いて、すれ違った男女の数はともに100人余り。
その中で女の人は半分近くがマフラー(あるいはショールなど)を巻いてたのに対して、男性はたったの2人!!

どうです、とりあえず僕のマフラーにおける男女比圧倒的女性有利説は正しかったでしょ!

まあ、そんな訳で、男性にとってマフラーというのは意外と特別なものというか、1年に数回するかどうかという極めて特殊なアイテムなんですよ。

さて、なんでそもそもそんなことを思ったのかと言いますと、先日久しぶりにマフラーをした時に、親父の匂いがしたんですよ。
加齢臭という意味ではないですよ、実際のうちの父の匂いということです。

それは、普段父親に会う時にする匂いではなく、子供の頃に父親の服を借りて着た時にした、大人の香りだった訳です。
もちろんそのマフラーが父のだったからなのですが、この匂いをかいだのは、おそらく数年前に同じくマフラーを借りた時以来だろうと。

そこで一気に数年前の冬のことや、子供の頃のことなんかがフラッシュバックしたんですね。

マフラーそのものが冬にしか出て来ないアイテムである上に、男はその冬にすら一度もせずに超してしまう年もある。
だから、そのマフラーについた匂い、手触り・肌触り、マフラーをして鏡に映る自分の姿で、一気に数年前の自分や風景を思い出しちゃうんですね。

さらに言えば、1年に数回しか使わないマフラーは、そうそう痛むものでもないので、結果的にクローゼットに何年何十年前の状態で残っている。
デザイン的にもあまりマフラーに流行というのもないので(厳密にはあるんだろうけど)、学生の時に買ったものとか昔の恋人からプレゼントされた手編みのマフラーなんかが、そのまま残ってて、ごく普通に今年の冬でも使えるんですよね。

これが他の衣類だったらそうもいかないでしょ。

中学生の頃に買った洋服なんて、デザイン的にもサイズ的にも、大人になった今着るのはなかなか難しいし、そもそもどっかのタイミングで捨ててしまってたりする。

しかしマフラーだけは、もらった(買った)その時のままの状態でクローゼットの中で現役バリバリで待ってて、当時の匂いがそのまま真空パックされたかのように残ってるんですね。

ほんと、こういうアイテムって珍しいでしょ?
靴下はいて「ああ、去年の夏思いだすなあ!」なんてことないでしょ、やっぱマフラーだからこそなんですよ。

女と違って、男はそんな昔の想い出を引きずるのが大好きな生き物です。
なので、プレゼントにはやはりマフラーというのは最適なんじゃないでしょうか。

きっと10年後でも20年後でも、男はそのマフラーをもらった時の事を、瞬間的に思い出すでしょう。

間違えても、靴下なんてプレゼントしちゃ駄目ですよ!
そのうち擦り減って、へたしたら付き合ってる間にすら捨てられてしまいます。

やっぱ、マフラーをよろしく!なんですよ、男は。

<2014年のあとがき>
これは2007年に書かれた文章です。
たしかに、ここから7年経った現在まで僕は新たにマフラーを1本も買ってないし、今でもマフラーするのは年に数回です。
なので、文章にあるとおり、毎年マフラーをするたびに1年前2年前に同じマフラーをした時のことを思い出します。
すっかり忘れてた自分の文章に「たしかにそうだなー」と感心してしまいました。
こういうどうでもいい<気付き>って、その瞬間しか覚えてないことなんで、やはり文章にして残しておくのって大事ですね。
今はそういうことを『雄飛メモ』と題してスマホにメモってます。